大阪家庭裁判所 昭和45年(少)1572号 決定 1970年5月26日
少年 J・G(昭二五・一一・二二生)
主文
この事件につき少年を保護処分に付さない。
理由
(送致事実)
少年は、
第一、警備に従事する警察官の身体等に対し、多数の者と共同して危害を加える目的をもつて、昭和四四年一一月一六日午後八時二〇分ごろ、東京都大田区○○×丁目○○番地付近において、多数の者とともに、凶器として多数の火炎びん、石塊等を携え準備して集合し、
第二、多数の者らの共謀のうえ、昭和四四年一一月一六日午後八時二二分ごろ、東京都大田区○○×丁目○○番地付近において、学生労働者らの違法行為の制止検挙の任務に従事していた警視庁警察官らに対し火炎びん石塊等を投げつけるなど暴行を加え、その職務の執行を妨害したものである。
(保護処分に付さない理由)
一 少年は送致事実を否認しており、一件記録を精査するも、送致事実についての現場写真も、目撃者あるいは共犯者の供述調書もなく、更に捜索差押調査によると、少年の住居を捜索しているが何ら送致事実に関係あるものは発見し得なかつたことが明らかである。
二 (一) ただ少年は現行犯として逮捕されており、逮捕時の少年の状況について、現行犯逮捕手続書、および警察官大里王成作成の「参考人経歴、現認等メモ」(以下単に現認メモという)ならびに検察庁の用紙に福永の印がある「取調メモ(大里王成)」(以下単に取調メモという)が存するので以下これらの資料によつて検討する。
(二) 現行犯逮捕手続書によると「送致事実の犯行を行なつた学生らは赤へルメットを被つた六〇名位の集団であるが、それを取り巻くように五〇〇名位の群集があり、警察官らがガスを発射して規制にかかつたところ、右学生らや一般群集は○○駅前広場の方向へバラバラと逃げ出し、これを規制追尾していたところ、○○駅東口の○○銀行前の車道から歩道上の群集の中へ少年が逃げようとしていたので現行犯と認めて逮捕した」ということである。なお現行犯逮捕手続書添付の逮捕現場付近見取図によると、火炎ビンが投げられたり、投石が行なわれた場所は、駅前通り(現認メモの東口商店街通りに当る)と△△銀行通りが交わる角の東側である。
(三) 少年を逮捕した場所及び逮捕した時の状況については、現認メモ及び取調メモに詳細な記載があるが、それによると「警察官らは東口商店街通りの東側から学生らを規制しながら西に進み、△△銀行前通りを南に折れたところで、同通りの次の交差点(○○×丁目○○番と同△△番の間)に少年がいるのを始めて発見、その際少年は逃げて行く五〇名位の集団の最後の右側にいた、なお右五〇名位の集団は赤ヘルメットは被つていなかつた。(少年もヘルメットを被つていない。)」ということである。
(四) 以上の現行犯逮捕手続書、現認メモ、取調メモによると、逮捕した警察官らは少年が送致事実の犯行に参加していたのを現認していないし、取調メモによる赤ヘルメットを被つていない五〇名位の集団が送致事実の犯行を行なつた赤ヘルメットを被つた六〇名の集団と同一の集団であるのか非常に疑わしいし、混乱を避けて逃げて行く一般群衆の中から特に少年を現行犯と認めて逮捕した理由に乏しい。
三 以上のとおり捜査機関が送付した資料では送致事実を認定するに足らず、又右資料から他に送致事実を認定するに足る証拠で且つ家庭裁判所において容易に取調の出来る証拠の存在を推認することも出来ないから、職権で証拠調をするまでもなく、本件は非行なしとして主文のとおり決定する。
(裁判官 赤塚健)